キューバ・日本の二人展 「濃厚なアフリカの薫り」

朝日新聞ウイークリー AERAアエラ 2004年7月12日号より
文・写真家 板垣真理子


意外と長い付き合いなのに、触れる機会はそう多くないキューバ美術。
現代の代表的作家と日本人美術家の競作展が東京で開かれる。
作品に浮かび上がるのはルーツ、アフリカのイメージだ。
今年、日本とキューバは国交樹立75周年を迎えた。それを機に、映画祭や音楽会などの記念行事が今春から続いている。その一つとして、東京・青山のギャラリーGANとプロモ・アルテで7月8日から11日間、「脇田愛二郎/ネルソン・ドミンゲス展」が開かれる。展示作品の総数は30〜40点と小規模だが、アフリカに源流を発するキューバ芸術のエッセンスをぐっと凝縮して見せる。

黒人詩をもとに競作
ドミンゲスは1947年生まれ。絵画のほか、ドローイングから版画、彫刻まで、多彩なジャンルの創作をエネルギッシュに続け、日本でも定期的に個展が開かれている。1942年生まれの脇田はニューヨークを拠点に彫刻作品で高い評価を受けており、2001年には彫刻のシンポジウムCODEMAに参加するなどキューバへの訪問も数多い。作品はハバナの街にも展示されている。
今回の展覧会は、二人が意気投合し、一緒に画集を作ろうというアイデアから始まった。
共通するテーマは、キューバの黒人詩の世界で知られるニコラス・ギリェンの作品。ギリェンは20世紀初頭に生まれた詩人で、その作品には、キューバ文化の核をなすアフロ・キューバンの薫りが色濃く宿る。

「夜明けに横たわって 動かぬギターが待っている、絶望した深い木の その声を」(『ギリェン詩集』より。羽出庭梟訳、飯塚書店発行)「ギリェンの詩は、一見悲歌ともとれるけれど、その中に温かい深さを感じる」と脇田はいう。  
その濃厚で生命力溢れる詩から受けたインスピレーションを、二人のアーティストが自らの世界にイメージとして反映させていく。
ドミンゲスの作品は、油絵の具などのミックス・メディア1点と、新作のドローイング十数点。黒を基調にした力強い線の中に、赤や黄の鮮やかな色彩が生き生きと浮かび上がる。

「アフリカやブラジルでの滞在経験が、よりいっそうキューバの中のアフロ性を意識させる結果となった」
と、長いこと、キューバのアフリカ的なるものとの強い共振を見せてきたドミンゲスは語る。
「絵を描いているとき、数々の過去の偉大なアーティストたちが肩越しに覗き込んでいるような気がすることがある」という言葉には、アフリカ、ヨーロッパ、先住民と、ドミンゲスが背負う文化の多彩さが透ける。

浮かぶ鉄色の人の姿
脇田も今回は平面作品を展示する。
こうぞ紙に鉄を漉きこんだユニークな手法で制作された。鉄は水分によって酸化して錆色に変化し、時の流れの中で定着される。細い釘状のもの、あるいは円形や人型に切り抜かれた鉄片が紙の中に漉きこまれる。
鉄色の人の姿は、アフリカ系の人々の姿にもみえる。

「アフリカの、温かさやユマニテといったものを表現できれば、と思っている」
素材そのものを生かした作品は平面でありながら、彫刻的要素も連想させる。これらの作品を素材としてスキャンし、さらにコラージュして、インクジェット・プリンターで出力した作品も展示される。こちらは赤や青の色彩が鮮やかに生きている。
二人には「絵を描くときは常に音楽を聴いている」という共通点もある。競作展の会場で、どのような共振音が聴こえるかが楽しみである。


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