プロモ・アルテ ギャラリー
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カリブ海からやってきたキューバ美術の熱い波
日経アート 1998年7月号


青い空、澄んだ海、まぶしい太陽、サルサのリズム…
キューバと聞いて思い浮かぶのは、こんなイメージだろうか。
あるいは、チェ・ゲバラ、カストロ、ヘミングウェイ、葉巻、野菜?
もちろんキューバの魅力はこれだけではない。
この夏、熱気あふれるキューバ美術が日本にやってくる。
巨匠・若手合わせて19作家によりキューバ美術の今を紹介する
日本初のまとまったキューバ現代美術展だ。
会場に一歩足を踏み入れると、そこは多彩な個性のオンパレード。
今年、日本とキューバは移民100周年を迎えた。
その記念公式事業である本展で、両国の交流の歴史を振り返りつつ
あまだ知られざるキューバ美術の今を感じてみよう。

Murakami and Nelson

 

熱い国からきたアート
キューバ現代美術展
1998年6月2日〜7月5日/沖縄・浦添市美術館
1998年7月18日〜8月2日/東京・代官山ヒルサイド・フォーラム
1998年12月1日〜7日/福島・いわき市文化センター
主催/キューバ現代美術展実行委員会
後援/外務省、日経アート
協力/JUNKO KOSHINOデザイン・オフィス
◎問い合わせ先 キューバ現代美術展実行委員会
TEL03-3400-9560 FAX03-3400-9526



 

果てしないキューバの魅力
文・村上 龍

 数年前からキューバの魅力について語り続けてきて、そのことがまったく伝わっていないという思いと、確実に伝わっているという思いの両方がわたしにある。わたしは、キューバの魅力を紹介するためにエッセイを書き、映画を作り、またキューバ音楽のレーベル会社も作った。それらが実を結んでいると思うときもあるし、これはまったくの徒労に終わるのではないか、と思うときもある。だが、今は、伝達とは本来そういうものなのだ、と思っている。

 キューバという国、そこに生きる人々、その音楽とダンス、絵画や宗教などからわたしが学んだことは数限りなくあるが、その中でもっとも大切なことは、伝達への意志、とも言うべきものだった。生き延びていくために大切な何かを知り、それを未知の誰かに伝えること。
 ルンバという有名な音楽とダンスがキューバにはある。キューバルンバという社交ダンスとはまったく違うものだ。ルンバは、基本的に男女のペアのダンサーによって踊られる、非常に官能的な踊りである。わたしとキューバの関係はこのルンバによって始まり、今も続いている。ルンバは遠い故郷のアフリカを思い、過酷な労働を生き抜き、誇りを維持するために、無名の黒人奴隷たちによって誕生した。ルンバを初めて見たとき、わたしが驚いたのは、その洗練された抽象性だった。ルンバは打楽器だけで演奏され、ソロとコーラスのついた歌とともに踊られる。まったく同じものがアフリカのヨルバの国に存在するのかどうかわたしは知らないし、知りたいとも思わない。わたしは伝統芸能には興味がないのだ。放置しても残っていくような伝統には人に勇気を与えるような力はない。未知で異質な世界に連れてこられた人間が、半ば不可能と知りつつ、何か大切なものを残し伝えるために伝統に抽象化し再構成させる、そういった作業だけが、真にグローバルな伝達力を持つのだとわたしは考えている。しかもキューバでは、それは偉大な一握りの芸術家の手によって成し遂げられたわけではない。名もない黒人奴隷たちと、その資産を受け継いだ民衆によって形作られてきたのである。

 そのようなルンバの形成過程を思うとき、わたしは伝達の意味を考え直す。伝達というのは、伝え残すのがほとんど不可能に思えるものを、何とか伝えようとする意識的な努力だと、そう思うようになった。

 キューバ人のアーティストたちは、伝達を何とか可能にするために努力を惜しまない。音楽家やダンサーや画家は信じられないような長く厳しい訓練を自分に課し、しかもそれを楽しむ。キューバの音楽を聴くとどうして気持ちがいいのだろう、と昔坂本龍一に聞いたことがあった。それはうまいからだ、と坂本は答えた。どうしてうまいのか?それは、練習をするからだ。

 キューバの国立芸術学校に行けば、決して快適とは言えない環境で、えんえんとアルトサックスを吹き続ける若者や、数時間同じステップを踊り続ける若者や、信じられない集中力でデッサンを続ける若者を見ることができる。伝えたいことは簡単には伝わらないという真実が彼らのからだに刻み込まれているのだ。だから、彼らの表現は恐るべきスキルに支えられて、人間の情念とか苦悩といった近代芸術の陥弄からも自由だ。また彼らはその技術の高さと伝達への意志の強さによって、さまざまな芸術の様式を融合することができる。

 たとえば我が友人であるネルソン・ドミンゲスの絵を見てみよう。彼の絵には、スペインの宗教画とアフロの土着的なモチーフが混在し、しかもそれらは反発しながら調和していて、強烈だが、やすらぎを感じる。そして、ネルソン本人は葉巻を愛する穏やかな紳士である。彼は、彼の苦悩や情念をカンヴァスに定着しようとしているわけではない。彼は、わたしたちが生き延びていくときに必要な大切な何かを、正確にまた厳密に伝えようとしているだけなのだ。


 キューバのすべての表現には、伝達の意志があり、それがその美しさと強さとすがすがしさの秘密なのである。

 

 

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